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東京地方裁判所 昭和23年(レ)95号 判決

控訴人代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し被控訴会社の中野憲一郎名義の株式百株(新路第一八八五号、同第一八八六号、何れも五十株券)に付控訴人名義に名義書換手続をなせ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決をもとめ、

被控訴人代理人は主文第一項と同旨の判決をもとめた。

当事者双方の事実上の主張は控訴人代理人において「たとえ株券に株式の讓渡制限の規定の記載がないまゝで右規定を控訴人に対抗し得るとしても、株券に株式の讓渡制限の規定の記載がないことは、これを取得した控訴人が登記、公告された被控訴会社の株式の讓渡制限の定款の規定を知らなかつたことについて正当な事由があることになるから、被控訴人は定款の右規定を以て控訴人に対抗できず控訴人の請求に應ずべき義務がある。又そうでないとしても被控訴会社の本件株券は株式の讓渡制限を株券に記載することを要求している商法改正(昭和十三年法律第七十二号による)の後である昭和二十一年八月八日の発行に係るものであるにもかゝわらず、株式の讓渡制限の規定を株券に記載するとその流通を阻害するので被控訴会社は故意にその記載をなさず、しかも被控訴人は控訴人が最初に名義書換を請求した際には控訴人の商号である商工財務研究会名義に名義書換を爲し一旦控訴人に交付しながら、控訴人が控訴人の氏名の記載を附加することを請求するや、既に書換済みの商工財務研究会の名義を抹消して名義書換を拒否したのであつて右の如きは株式讓渡に対し承認を與うるか否かについてまさに権利を濫用したものに外ならず、その承認の拒否は許さるべきでないから、被控訴人は控訴人の請求に應ずべき義務がある。被控訴会社の定款の株式の讓渡制限の規定が昭和十五年一月十五日登記され同年三月一日官報を以て公告されたことは認める。」とのべ、被控訴人代理人において、「被控訴会社がその定款の株式の讓渡制限の規定を登記したのは昭和十五年一月十五日であり、右は同年三月一日官報を以て公告された。」とのべた外はすべて原判決事実摘示と同一であるからこゝにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

控訴人の本人訊問の結果(原審)によれば商工財務研究会という商号で出版業を営む控訴人が昭和二十二年五月訴外大和証券株式会社大阪支店から、訴外中野慶一郎名義の被控訴会社の株式百株(新路第一八八五号及び同第一八八六号何れも五十株券、以下單に本件株式又は本件株券という)を右訴外人名義の白紙委任状附で買受けたことが認められる。而して証人小西光彦の証言(原審及当審)の趣旨に徴すれば、被控訴人は訴外中野慶一郎名義の白紙委任状に押捺されている印鑑と同訴外人がかねて被控訴会社に届出ている印鑑とが相違するものであると主張するものではないと認められるから、同訴外人名義の白紙委任状は眞正なものであると認めるべく、他に特別の主張立証のない限り控訴人は商慣習に從ひ適法に株主権を取得したものと云うべきものである。

よつて被控訴人主張の株式讓渡の制限について判断するに、被控訴会社の定款に「株式ノ名義書換ソノ他移轉ニ関シテハ取締役会ノ承認ヲ受クルコトヲ要ス」という規定があり右は昭和十五年一月十五日登記され同年三月一日官報によつて公告されたこと本件株券に右規定の記載のないことは当事者間に爭がなく、成立に爭のない甲第一号証の一乃至三及五、証人小西光彦(原審及当審)同金子壽(当審)の各証言並に控訴人の本人訊問の結果(原審)を合せ考えると、控訴人は昭和二十二年六月一日被控訴会社に対しその商号である商工財務研究会名義に本件株式の名義書換を請求したので、被控訴会社の株式係はその創立以來讓受人が法人又は女性である場合にはその株式讓渡に付承認が與えられなかつたという事例がなかつた爲、控訴人の商号である商工財務研究会を法人と考え、商工財務研究会名義の禀議書を取締役会に提出の上、本件株券の「讓受人記名」欄に商工財務研究会と記載し、その保管する取締役の印鑑を押捺し、取締役会の承認を受ければ、直ちに名義書換ずみの株券を交付出來るようにしていたこと、取締役会は右商工財務研究会が法人であれば、讓渡を承認することとし、代表者の資格を証明する爲、登記簿謄本又は抄本を提出させるよう符箋を以て株式係に注意したこと及び被控訴会社は七月三十一日本件株券を受け取りに來た控訴人に対して右登記簿謄本又は抄本の提出をもとめたところ、控訴人は右商工財務研究会は法人ではない旨をのべ、控訴人個人名義に名義書換を爲さんことをもとめたので、被控訴会社においては改めて控訴人個人を讓受人として、取締役会に付議したところ、その株式讓渡について承認を與えなかつたので、控訴人の名義書換請求を拒否することとし、さきに記載した本件株券の裏面の記載を抹消の上、同年八月十三日その旨を控訴人に告げ、本件株券を控訴人に返還したことが認められ、控訴人の本人訊問の結果(原審)の内右認定に反する部分はこれを信用しない。他に右認定を左右するに足る証拠はない。

控訴人は株式の讓渡制限はたとえ定款にその旨の規定があり登記公告されていても株券上にその記載のない限り善意の第三者に対抗し得ないものであるところ、本件株券にはその記載がない、從つて被控訴会社は讓渡制限の定款の規定を以て善意の第三者たる控訴人に対抗することができないから、取締役会の承認がなくとも控訴人の名義書換の請求に應ずべきであると主張するので、この点について判断する。商法の規定によれば、株式の讓渡制限は定款を以て定めることができ、且つ、登記することを要する事項となつている上、株券の記載事項となつているのであるが、元來株式の讓渡の自由が、株式会社法上の重要な原則であることは、我が国の最近の両度の立法の趨勢に徴するも明かなところである。されば現行法がこれに制限を加えるに際つてその制限を定款の記載事項とし、且つ、登記事項としたことは旧法の單に定款の記載事項とのみしたのに比し正に当然の措置であつたといわなければならない。而して登記事項となつた以上、登記及び公告のなされた後は商法第十二條の正当事由ある善意者でなければ、その善意を主張することができないのであるが、商法はこのような事態の起ることをなるべく避けるため、讓渡制限を株券の記載事項となし(第二二五條第一項第六号)、且つこれを怠つた取締役に過料の制裁を科している(第四九八條第一四号)のである。若しこの場合控訴人の主張するように株券に記載のないことを以て善意の第三者に対抗することができないものとするには、恰も商法第十二條のように、その旨の明文がなければならないのに、さような規定は法令中どこにも存在しない。控訴人のこの点の主張は被控訴人主張の控訴人の惡意の点について判断を進めるまでもなく、理由がないとして排斥するの外ないしだいである。

つぎに控訴人は右のように株券に株式の讓渡制限の規定の記載がないことは之を取得した善意の控訴人が登記、公告された被控訴会社の株式の讓渡制限の定款の規定を知らなかつたことについて商法第十二條後段の正当の事由があることになるから、被控訴人は定款の右規定を以て控訴人に対抗できず、控訴人の請求に應ずべき義務がある、と主張するが商法第十二條後段の「正当ノ事由」というのは当該登記公告を閲読することを妨げるような客観的事由を指し、控訴人の主張するような事情はこれに該当しないと解すべきであるから控訴人のこの主張は、被控訴人の惡意の点について判断するまでもなく、理由がないとして排斥せざるを得ない。

最後に権利濫用の主張について判断する。控訴人が被控訴人が控訴人の本件株式讓受に付承認を拒否したのは権利濫用であるとして主張する事実は、(一)本件株券は株式の讓渡制限を株券に記載することを要求している商法改正(昭和十三年法律第七十二号による)の後である昭和二十一年八月八日の発行に係るものであるにもかゝわらず、株式の讓渡制限の規定を株券に記載するとその流通を阻害するので故意にこれを記載していない。しかも、(二)一旦控訴人の商号に名義書換を爲し之を控訴人に交付しておきながら、控訴人が控訴人の氏名の記載を附加することを請求するや、すでに書換済みの控訴人の商号を抹消して名義書換を拒否したのである。というのであるが、既に認定の通り(二)はその事実が認められないから、これを前提とする主張の理由のないことはいうまでもない。成立に爭のない甲第一号証の一、二によると、本件株券は、昭和二十一年八月八日の発行にかゝることが明かであり、その株券上に株式の讓渡制限に関する規定の記載のないことは当事者間に爭のないところであるが右記載の欠缺が被控訴会社の株式の流通を円滑ならしめようとする故意に出るものであるという点に関しては何らの立証なく、かえつて前示甲第一号証の一、二の裏面の「本株券ノ讓渡ハ裏書ニヨルコトヲ得ズ」なる旨の記載並に証人小西光彦の証言(原審及当審)を合せ考えれば、株式の讓渡に付取締役会の承認を得くべき旨の株式の讓渡制限の規定の記載を株券上に爲さなかつたのは、被控訴会社の單なる手落にすぎないことを認め得るから、被控訴会社が本件株式の讓渡に付承認を拒否したことが権利の濫用であるという主張は理由がない。

してみると本件株式を控訴人が讓り受けることについて被控訴会社の取締役会の承認がないことになるから、被控訴人がその名義書換の請求に應じないのは正当であつて、控訴人の本訴請求はいまのところでは(今回の改正法施行後はその施行法の定めるところにより別異になることも考えられるが、)理由がないものとして排斥の外ないしだいである。

從つて右と同旨の原判決は相当であるから、本件控訴は民事訴訟法第三百八十四條に則りこれを棄却し、当審の訴訟費用の負担につき同法第八十九條を適用の上主文の通り判決する。

(裁判官 小川善吉 中田秀慧 村上悦雄)

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